指きり(7)   感染する不安



まだ三日目だというのに透太の様子がいつもと違うような気がして、理玖にはそれが少しだけ気がかりに思えた。
理玖の姿が見えないと不安そうな目で探し、どこかうろうろと理玖の側から離れようとしない。
それは恋人同士の甘いものとは違い、もっと不安定なもの。夕暮れ時を嫌う透太の心と酷似しているように見えた。
昨日一人きりにしたせいなのか、それとも他に原因があるのか。確かな事は判らなかったが、
また昨日のような事になったら…そう思うと理玖は、透太をひとり残してバイトに行くのが不安でならなかった。
だから、今日はバイトを休もうと思い店に電話を入れた…が、電話に出た店長は。

「急な休みは困るんだよね。とくに今日は日曜日だし…誰か代わりに出てくれる人がいれば良いけど。
一応他の人に当たってみるから、十五分ほどしたらもう一度電話をくれるかな…」
渋い口調で言われ、理玖は再度連絡をする事にして電話を切った。
そして、十五分後にかけた電話での返事は、今日の今日だから誰も都合がつかない…というものだった。
店の従業員は店長を除くと全員アルバイトの学生かパートの主婦で、土日は休みたいだろうし予定もあるのだろう。

結局バイトは休めない事になり、どうしようかと考えた末。
理玖は、自分のバイトが終わる頃透太に駅ビルまで迎えに来てもらう事を思いついた。
実際何事も無く時間に帰れればどうという事もないのだ。今の時期なら七時ではまだ明るい…大丈夫。
そうは思っても、一度心配し出すとそう簡単に心配の種は消えてくれない。
だから、透太が迎えに来てくれれば…駅ビルの中なら明るいし一人きりになる事も無い。そう思ったのだが。

「なんで態々お前を迎えに行かなくちゃならないんだよ。嫌だ、めんどくさい」
透太は一言の元に言い。理玖は、やはり…と思いながらも、今度は透太を迎えに来させる口実を探した。
そして閃いたのが、透太の好きなホラーアクションゲームの攻略本を餌にする事だった。
「そうだ! 透ちゃん、バイオのガイドブックが入っているんだよ。確か発売されたら買うって言っていたよね」
すると透太は、見事に理玖の投げた餌に食いついたように見えた…が。

「えっ、マジで! だったら、帰りに買ってきてくれよ」
するりと交し釣れてはくれない。だから、餌を揺らし更に誘う事にした。
「それは良いけど…でも、何冊か種類があるんだよ。僕にはどれが良いか解らないけど…どれでも良いの?」
「や…どれでもって訳にはいかないよ。そっか…やっぱ、俺が見て買う。何時に行けば良いんだ?」
やはりガイドブックには勝てなかったのか、透太は理玖の期待どおりの返事と共に理玖を見上げた。

だがその顔が、何となくホッとしているようにも見え、今まで見た事もないほど頼りなく危い表情にも見えて。
理玖は自分の思い付きが功を奏したのを喜ぶより先に愕然とした。

もしかしたら…透太にこんな顔をさせるのは、自分なのか。だとしたら、透太にとって自分は…。
そんな事を思ったら、自分の想いが酷く邪で身勝手なもののように思えた。
ただ好きなだけなのに。なにより大切で、誰にも渡したくない…だけなのに。ずっと、一緒に居たいだけなのに。
自分の想いは、大切なはずの透太にこんな顔をさせ、いつか取り返しのつかない傷を負わせ…泣かせる。
そんな不安と迷いが心の中で拡がっていく。そしてその不安と迷いが囁く。

【透太が大切なのだろう。だったら今までどおり…従兄弟同士の関係で良いじゃないか。
好きなんだろ? 誰にも渡したくないんだろう? だったら、無理やりにでも自分のものにしちゃえよ。】
相反する声を聞きながら、理玖は耳を塞ぎ、目を瞑り…目の前にある欲しい者に手を伸ばし…抱しめた。


バイトが終わると迎えに来ていた透太と一緒にガイドブックを買い、その後地下の食品売り場に行く。
そこでカレー用の肉とジャガイモ、それとデザートに透太の好きなスイカを買って家に帰ると。
透太が家を出る時に電気とクーラーを消し忘れたのか、それとも点けて出たのか…家の中は明るく涼しかった。
「直ぐカレーを作るから、透ちゃんは買ってきた本を見てて良いよ」
理玖はそう言うとそのままキッチンに立ち、ジャガイモの皮を剥きはじめる。
すると普段なら料理になど全く関心の無い透太が、理玖の横に並びピーラーで人参の皮を剥きながら。

「お前人参嫌いだろう?小さく切った方が良くねぇ。玉ねぎはどうすんだ?一緒に炒めるのか?
それとも後で入れるのか? 一緒だと溶けちゃうだろう。でもカレーってさ、残ったのを次の日食うとめちゃ旨いよな。
それって、時間をかけて全部どろどろになるまで煮込んだ方が良いって事かな。」
等と言いながら理玖の側にへばりつき、あれこれと口上を述べている。そんな事は今まではあり得なかった事で、
やはりいつもとは違う…と思いながら、理玖は少し膝を屈めると透太の頬にチュッとキスをした。

「わっ!何すんだよ、危ねぇな。手の皮まで剥けちゃうだろう」
透太は目を剥いて喚きながら、人参を持った手の甲で理玖の唇が触れた頬を押え。
その顔がみるみる人参と同じ色になる。それすらも可愛くて、どうすればこの時間が二人の日常になるのだろうと思い。
何をすれば永遠に続くのだろうと思う。いつも隣に居る存在…そうなりたいと願い。
親まで巻き込んで始めた、恋人同士になるための一週間…のはずだった。
なのに、まるで透太の不安が感染したかのように理玖の心も揺れ始め、この一瞬が覚めないように…と願ってしまう。

「ごめんね。僕の隣にいるのが透ちゃんだって事、ちょっと確かめてみたんだ」
「お前な。確かめなくても、お前の隣にいるのは俺だよ。それに…そういう事は時と場所を考えてしろよ」
透太が確かな声で言いながら肘で理玖の脇腹を押し、その微かな痛みが理玖を現に引き戻す。
考えてみれば、幼い頃から理玖には透太が道標であり、立ち止まった理玖の背中を押すのも透太だった。
だから、いつも側にと願い…欲した。その透太が幾分頬に赤味を残したまま、睨むような目で理玖を見つめていた。

あぁ…そうか。この目は、いつも背中を押す透太の手と同じ…理玖にはそんなふうに思えて。
「うん…そうだね。透ちゃんに間違いない」
そう言うと、今度は透太の唇に…ありったけの想いを込めて…キスをした。


「理玖…今日は…しない……のか?」
見上げる透太の大きな目が不安そうに揺れ。
「うん…今日は、こうして透ちゃんを抱いているだけで良い」
理玖は口元に笑みを浮かべ答える。
「そっか。しないの…か」
透太は、ホッとしたように目を伏せ…微かな寂しさの色を伏せた睫毛の下に隠した。
だから理玖は…透太の口がはっきりと拒絶の言葉を吐くまでは、最初の決心を貫こう…と決意する。


今日は月曜で理玖のバイトも無い。それなら一緒に何処かへ…そんな事を思い、上場?気分な透太だったが、
朝から家庭教師モード全開の理玖に、半強制的に課題の本読みをさせられ。
滅多に本など読まない透太は、一日がかりでやっと読み終えた。そんな透太に理玖は、
「明日はレポートを書くから頭の中で整理しておいてね」 等と言い。
透太にとっては、昨日一昨日に引き続き最悪の一日…になったような気もした。
それでも絡め取られるような不安感は無く。少しばかり偉そうで、鬱陶しい理玖がいつも側にいる。
だから、何となく安心で、何となく嬉しい一日…そんな気がしていた。

「透ちゃん、今日は一緒に風呂入ろう」
夕食の後片づけを終えた理玖が、何気ないそぶりで言いながら手にした下着を透太に差し出す。
それを受け取りながら、透太は訝しげな顔で理玖を見つめ、理玖の言った言葉そのままに聞き返した。
「お前と一緒に風呂? なんで?」
「背中、流してあげる」
「……いいよ…自分でできる。それに…」
そこまで言って、透太は次に続く言葉を飲み込んだ。

頭の中には、恥ずかしいとかまた何かされるのでは…とか、そんな考えが浮かびくるくると回る。
だが、その何か…も、既にしているし、互いの裸も何度も見ている。だから今更…と、思ってはみるのだが。
知ってしまった理玖の手が生み出すもの…そしてそれに抗えない自分。それと…微かな期待にも似た感情。
それらが混じりあい、恥ずかしさと同時に後ろめたさが透太の口を閉じさせた。

「それに…なに?」
「ん…うんん…何でも無い…」
透太は口を噤む事で心の内を隠し、そんな透太に理玖の屈託の無い声がさりげなく風情で忍び込む。
「小さい頃、よく一緒に遊んだ後にお風呂に入れられたよね。
二人共身体なんか全然洗わないで、水遊びばかりしていて…母さんや叔母さんに怒られたっけ」
「そ…そうだっけ?」

「うん、透ちゃんは潜水の練習だと言って浴槽の中で潜って…お湯を飲んじゃった事もあった。
でもそのおかげかな、スイミングでもスタートしてから最初に浮いてくるまでの時間が一番長かった。
それに息継ぎも上手だった。だから透ちゃんは、いつも真っ先に選手に選ばれたんだ。
今はもうそんな事はしないだろうけど…でも透ちゃんなら、今でもしそうな気もするな」
理玖は懐かしそうに言いニッコリと笑う。その顔が…透太は今でも風呂で遊んでいる。そう確信しているように見えて。

「す、するか!そんな事…ガキじゃあるまいし」
透太はむきになって否定した。本当は…風呂で遊ぶどころか、浴槽にも入らない。
下手をすれば身体もろくに洗わないで出る…のだが、それを言うとまた理玖に何を言われるか判らない。そう思ったのだが。
「だよね…。透ちゃんはお風呂の時間、めちゃくちゃ短いもんね」 理玖はあっさりとそれを見抜き。
「でも、久し振りに一緒に入りたいな…とか思っちゃった」 殊勝な顔で付け足した。
そして透太も…そこまで言われるとそれ以上は拒めず、渋々ながらも理玖の望みを受け入れる。
「………。じゃ…背中流すだけだぞ」
「うん、勿論!」



   意思と身体


【やっぱ、一緒になんか入るんじゃなかった…】
透太は、恨めしそうな目で理玖を見つめながらそんなことを思っていた。畳一枚程度の広さしか無い洗い場は、
一人で入るにはさほど狭いと感じなかったが、男が二人となるとやはり狭苦しさはある。
其処に縮まるようにして、背中を流してもらったのは良いが、やはりそれだけでは済まなくて。
脚の指から手の指一本一本まで、身体中をやんわりとなぞられ、中心が自分の意思と関係なく芯を持ち始める。
挙句、要らないというのに芯をもったそれまでも丁寧に洗われると、気を紛らしても紛らしきれず。
「透ちゃん…元気になっちゃったね」
理玖はクスクスと笑いながらも手を止めようとはせずに、長い指で ても大切そうに透太の股間を洗う?
だェそれに、洗うと言うより愛撫と幻った方が正しいような気がして、見ている目から欲情の種が入り込釣。 >から…透太は視線を斜め上に外し、羞恥を裏返した不機嫌そうな声で言う。
「そんなとこ…いつまでも擦ってるなよ」

すると理玖がクスッと笑い…今度は透太が身の危険を感じるような事を言った。
「ふふ そう? それじゃ、ちょっと後に挑戦してみようか…大丈夫、無理にはしないからさ」
それには流石に、ギョッとしたように透太の身体が強張り、口から飛び出した声が裏返る。
「う…後って? まっ!まさか」
そして、傀儡人形のようにかくかくと不自然な動きで、引きつった顔を理玖に戻した。

「うん、マッサージ…だけね。ちょっとシャワーを使うから…後ろを向いて」 理玖は、いかにも心配無さげに言い。
「マッサージ? なんだ、肩とか腰でも揉むのか?」 透 太は単純にそう思い。
理玖の言った言葉をそのまま素直に、疑いもせず受け取り。言われるまま理玖に背中を向けた。
そして、弱めにしたシャワーの湯が肩に降り注ぎ。透太の身体を纏うホイップな泡をタイルへと流し始める。
肩から胸、腹…背中から腰…それから前へと。肌を伝い流れ落ちる泡の雫がなんとも言えず気持ち良くて、
理玖の手が前に伸び、中心をやんわり包みこむと…透太は顔を少しだけ上げ…目を閉じた。

「透ちゃん、マッサージするから僕の上に載って」
言葉と同時に後から抱き抱えられ、膝の上で理玖の胸に背中をに預けると身体は半面だけ理玖と密着する。
そして理玖の手は透太の胸と、腹の下にあり…洗い流したはずのソープと同じ様に滑りだす。
「あっ…ん…あぁ…なんか気持ち……いい…」
思わずもれた透太の声は浴室の中に漂い、理玖の手に溶け…羞恥に勝る快感に変わった。

あぁ…もう…いきそう…。頭の中も身体もそれに満たされ、自分がどんな格好でいるのか考える隙間も無く。
胸にあったはずの理玖の手が、いつのまにかもう片方の手の下に移動していることにも気付かない。そして、
「透ちゃん…此処洗うよ…」
理玖の声に頷き…駆け上ろうとした一瞬。いつもは排泄するためにしか使わない場所に、何かが入り込んできた。
途端、昂ぶりは一気に引き戻され、代わりに後孔の更に中に感 じたのは不快と言って良い違和感。
「あっ!なっ!なに? い、嫌だ!」

一度も経験した事の無い不快感に、透太は何がどうなったのか訳が解らず、慌てて理玖の上から逃れようと?…が、
理玖の腕が後ろからしっかりと腰に巻き付き。挙句、開いた脚が理玖の脚の外にあって閉じる事も儘ならない。
それに…背後からというのは、不利になる事はあっても有利になる事はない。それでも透太は、なんとか逃れようとするが。
「大丈夫、痛く無いから…少しお湯が入るだけで何でもないよ…」
理玖の声が首筋を這い耳に入り込むと、それだけで強張っていた身体は緩み…理玖に委ねようとする。
自分の身体が意志を裏切り…同じ方向を向かない事もあるのだと…透太は初めて知った。

「う…うぅぅ…嫌だ…気持ち悪…」
精一杯の足掻きで嫌悪と不快感を訴えるが、理玖は腕を緩めるどころか膝を割り。おかげで透太の尻は落ちそうになる。
それを理玖が脚を抱えて支えるものだから、まるで小さな子供が排泄する時のような格好になってしまった。挙句に、
「ちょっと、お腹に力を入れて出しちゃって…」
等と言われ、腹に力を入れると、汚い話だが下痢の時の水便が出るような感覚…で、中に入った湯が出てくる。
既に頭の中は、恥ずかしいとか嫌というより、中に入ったものを出さなくては…に終始していまい。

「上手くできたね…もう一度入れるよ」
理玖の言葉にも素直に頷く。そして何度か度繰り返されると、あんなに元気だった分身がすっかり萎えて。
情けなく項垂れて…惨めな姿。それは本体である透太も同じで、ぐったりと理玖に凭れて動きもしない。
なのに…その元凶である理玖は、透太を椅子に座らせもう一度シャワーを浴びせると。
「あぁ…すっかり元気なくなっちゃったね…でも、直ぐに前より元気になるからね」
言いながら自分の腰にバスタオルを巻き、それから透太をローブで包むと難なく抱き上げた。


抱きかかえられ風呂から出た後、丁寧に身体を拭かれ…理玖の成すまま布団に横たえられた後も、
透太は、何となく必要以上に疲れた。このまま寝たい…そんな気がして然したる抵抗も見せなかった。
それなのに理玖の手が、唇が…肌に触れると、身体の中で目覚めたものがゆっくり蠢き出す。
萎えたものが頭を擡げ、透明の雫を滴らせ…そして、大きく脚を開かれ期待に震えるものを口に含まれ…。
耳を塞ぎたくなるような、しどけない甘い声を聞きながら…思い知る。
自分の身体は、理玖に触れられるのを喜び。もっと…愛されたいと願っている…と。

おそらくは…その谷間にある場所を目にした事のある者はたった一人。幼い時おむつを替えてくれた母親だけ。
他人はおろか、自分すらも見た事の無い透太の其処を、理玖は感慨深そうな顔で見つめ。
それから双丘に両手を当て、左右に広げた。そして。
「透ちゃんの此処…キュッと閉じててやっぱり可愛い。脚…しっかり持っててね」
やはり意味不明な事を言いながら顔を近づけ…信じられない事にその谷間に舌を這わせた。

【嫌だ…こんな格好…赤ん坊がおむつを代えるときみたいだ】
頭ではそんな事を思いながら、後に舌を這わせながら手で前を抜かれると。
節操の無い分身は、一度放ったにも拘らずまた勃ち上がってくる。まるでそれを見計らっていたかのように。
「大分柔らかくなったみたい…もう大丈夫…かな」
理玖が独り言のように言い、たった今まで舌を這わせていた場所にプチッと指を刺しこんだ。

「あっ!やっ、やだ!」
透太は思わず叫び、その弾みで抱えていた右脚が空を蹴る。するとその脚を理玖の手が掴み透太の胸に着くまで折り曲げ。
「大丈夫痛く無いよ…だって、透ちゃんの此処、とっても柔らかくなっているもの」
言いながら、後孔に刺し込んだ指を少しずつ中に押し込む。なのに…理玖の言うように不思議と痛みはなく。
ただ、逆さに撫でられているような何とも言えない気持ち悪さで、身体が無意識に異物を押し出そうとする。
そしてそれが指に伝わったのか、理玖の左手が延び透太の腹を摩りながら言う。

「やっぱ、最初はきついな。透ちゃん、そんなに力まないで。大丈夫だから力を抜いて」
そんな事を言われても、歯の隙間に何かが挟まっているような違和感と同じものが後孔にあって消えてくれない。
「嫌だ…気持ち悪い…やめてよ」 とうとう半分泣きの入った声で哀願する透太に、理玖は。
「ごめんね透ちゃん…もう止められないよ。でも、すぐに気持ち良くしてあげるからね。我慢して」
腹に載せていた手を少し下に移し、後孔に侵入させた指を動かし始めた。

ぬるぬると出入りする感触が気持ち悪くて…そのうち便意?を模様しそう…な気になって。
「いやだ!理玖止めろよ…ウ○コが出そう」
全く場にそぐわない言葉を口にしながら、透太はなんとか理玖に行為を止めさせようとするが。
半分萎えていたものを口に含まれると、拒絶は快感に流されてしまい。そのうち、後孔に奇妙な感覚が湧いてくる。
脚の指先まで痺れるような…気持ち良いというのとは少し違うなにか。
入口か出口か判らなくなって…もっと強く押し広げ…深く奥まで…そう思ってしまう。

あっ…やだ…もっと…強く……して…。
声に出した訳ではないのに、あたかも聞こえていたように理玖の指が入口を抉じ開け、
奥へと侵入し中を掻きながら押し広げるように動く。そして…背筋を貫く強烈な刺激に身体が跳ねた。

「みつけた…透ちゃん、後は気持ち良いだけだからね」
濡れた音が卑猥だ…荒ぐ息が淫らで…口から漏れる声が自分のものと思えない。
俺…女みたいに…喘いでいる。耳を塞ぎ、目を被い、全てを消して…今の自分の姿を消してしまいたい。
そんな思いとは別に身体は快感を追い、頂きに昇ろうと足掻く。その為に伸ばした手を理玖に払われてしまい。
あぁ…もう、いきそうなのに…どうして…

「透ちゃん、触って欲しかったら僕に言って」
「い…いやだ…そんな事…」
「ふふふ…透ちゃんは強情だね。じゃ、もう少し頑張る?」
理玖はそう言うと、途中から前には触れる事もせず後ろにだけ刺激を与え続けた。
とろとろと煮詰まった身体は、雫を滴らせながらいきそうでいけない。
絶え間なく漏れる声が濡れた音と重なり響き…透太の腹も叢自分の零した雫でべたべたになっていた。

あと少し…ほんの少しの刺激が欲しい。
なのにそれが足りず、身体の中を駆け巡る熱に燻られこのまま灰になりそうな気がした。そして、
「お願い…理玖……前に…触って…」 身体が音をあげ、口から強請る言葉を吐きだした。

「よく言えたね…。いいよ、口でしてあげる」
欲しかった場所に欲しいものを与えられ…一気に昂まった射精感に。
あっ…ああぁぁぁぁ……い…く……世界が真っ白になった。
虚脱した身体と朦朧とした意識の中で、理玖の手が温かいと思った。世界で一番優しい…と思った。
そしてふいに、心臓をきゅっと捕まれたような感じがして涙が溢れてきた。
だから…腕を伸ばし理玖の首に回すとそのまま抱きつく。すると涙はますます湧いてきて…理玖の肩に流れ落ちた。

「透ちゃん……」
「やっぱり変だ。俺…女じゃないのに。女みたいに、こんなを事をされて…。こんなの嫌だ」
首に縋りつき、頭をふって…嫌だと言って泣く透太に、理玖は震える背中をそっと撫でながら。
「………ごめんね、透ちゃん……ごめん」 それしか言えなかった。


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