指きり(6)  トラウマも寿司には勝てない?



六時半交代のアルバイトが一時間も遅れるという事で、帰りが遅くなると電話を入れたが、
何度鳴らしても透太は電話に出る気配も無く、それならとメールも送ったがこれも返事は返って来なかった。
理玖のバイト先は駅ビルの中の本屋で、其処で土日は一時から六時まで。
そして平日は水曜だけ五時から八時までのバイトをしていた。バイトは学生が多い為か、
時には交代の時間に遅れる者もいて、多少延長になる事もあった。

いつもはそれを気にする事も無かったが、今日はどうしても暗くなる前に家に帰りたかった。
だから交代の学生が遅れて着くや否や店を飛び出し、歩きで十五分の距離を全力で駆ける。
そして家の前に着くと、玄関も、部屋の中も暗いのを見て、理玖は息を整える間もなくドアを開けた。
靴を脱ぐのももどかしくリビングに飛び込むと、薄暗い部屋の隅で膝を抱え小さくなって座っていた透太が、
頭を上げ…振り向いた顔が薄闇の中で泣きそうに歪んだ。

「遅いよ…もう、暗くなっちゃったじゃないか…」
「うん、遅くなった。ごめんね…」
言いながら理玖は透太の側に近付き、透太の身体をそっと抱きしめた。
すると透太が、理玖にしがみ付くようにしてシャツを握りしめ、胸に顔を埋めるようにして言う。
「暗くなるのに帰って来ないから…友だちと何処かへ行ったのかと思った」

その声はいつもの透太からは想像もつかない程頼りなげで、大分前から一人で蹲っていた事を窺わせた。
「バカだな…透ちゃんが待っているのに、何処にもいく訳ないよ。交代の子が遅れたんだ…ごめんね」
理玖はそう言いながら、少しだけ強張っている透太の背中をゆっくりと摩る。
だが透太は、理玖の胸に頭を付けたまま小さく頷きはしたが、それでも理玖から離れようとしなかった。

透太はあの事故以来、日の暮れかかる時間になると酷く不安定な精神状態になる事があった。
身体を硬直させながら悲鳴を上げ続け、それはある種発作のようでもあり。 医師に相談したところ、
事故の時の事が心に深く刻まれたままで、それがトラウマとなって発作を引き起こすのだと言われた。
だから生垣の家は夕暮れ時は早くから電気が点き、透太が一人きりになる事はなかった。
その甲斐もあってか発作は徐々に減り、重ねて成長した事も手伝ってか、悲鳴を上げるような事は無くなっていた。

それでも透太の心の中には、不安を引き起こすキーワードになるものが存在していたのだろう。
まるで何かに怯えるかのように、小さく蹲ったまま動くことすら出来なくなる事もあった。
その事を知っていた理玖は、どうしても暗くなる前に帰りたかった。それが、予想外の出来事で帰りが遅くなり。
挙句に、家の電気が一つも点いていないのを見た時、透太を一人残しバイトに行った事を後悔した。

そして案の定、腕の中の透太は理玖から離れるのを嫌がるように、胸に埋めた顔を上げようともしない。
「大丈夫、僕がしっかり捕まえているから怖く無いよ」
そう言いながら、理玖は抱きしめた透太の背中を撫で続ける。するとその手に安心したのか、幾分落ち着いたのか。
透太の強張っていた身体から徐々に力が抜けて、理玖のシャツを握っていた手を自分から解いた。それを合図のように。
「透ちゃん、暗いの嫌いでしょう…電気を点けようか」
理玖はそう言うと透太の肩を抱いたまま立ち上がり、壁伝いに移動するとスイッチに手を伸ばした。

暗闇に慣れた瞳孔は眩さに収縮し、そして一瞬の痛みを伴いながら明るい世界を取り戻す。
その明るさの中で見る透太の顔は、夏の真っ盛りと言うのに唇は色を失い、肌までかさついているように見えた。
「透ちゃん、どう? 落ち着いた?」
「……ん…」 
小さく頷いて、それでもまだ不安そうな顔で理玖のシャツの端を掴んだままの透太に、理玖はにっこり笑いながら言う。
「そうだ! 透ちゃん、夕飯は外で食べようか。透ちゃんの好きな、回転寿司でも行く?」
透太が、いつも回転寿司に行きたがっていた事を聞いていたから、もしかしたらそれで透太の気分も晴れるのでは。
そう思ったのだが、存外それは的を射ていたのか…透太の顔が僅かに綻んだ。

「回転寿司? いいのか?」 
「うん、いいよ。僕達だけだからさ、透ちゃんの好きなものを食べに行こう」
理玖のその一言で、理玖を見上げる透太の顔が更に綻ぶ。
「ほんとか? 俺さ、今年駅前に回転寿司が出来た時、とっても楽しみにしていたんだ。
それなのに母さんは一度行っただけで、美味しくなかったから二度と行かない…なんて言って、それっきりだよ。
あんなに安いのにいろんな寿司が次々周って来て、好きなものを好きなだけ食べられるなんて最高なのにさ」
まるで流れる寿司を見ているかのように目が輝きを取り戻す。

そんな透太を見ながら、たかが回転寿司ですっかり元気になるなんて、小さな子供みたい。
思いながらも理玖は、そこが透太らしい…とも思い、ホッと胸を撫で下ろした。
「そうだね。それじゃ、今日の夕飯は回転寿司にしよう」
「うん! じゃ俺、財布取って来る。あ、ついでにシャツも着替えてくるから、ちょっと待ってて」
回転寿司がよほど嬉しかったのか、透太はさっきまでの不安は何処へ行ったとばかりに理玖の部屋へ駆け上がって行く。
その後姿を見ながら…理玖が、ぼそっと呟いた。

「透ちゃん…まさか回転寿司なんかを餌に、誰彼かまわず付いて行ったりしないよね」


テーブルに向かい合って座った途端、透太は次々と流れてくる皿を取っては旨そうに寿司をぱくつく。
その速さに理玖は思わず目を見張り、皿を取る自分の手を止めてしまった。そして、笑いながら言う。
「透ちゃん、しっかしよく食べるね…その細い身体の何処に、そんだけ入るの?」
「ん? だって俺、寿司大好きだから。それにちゃんと出すもの出してるから大丈夫だって」
およそ食事時に相応しくない事を言いながら、透太はまた流れてくる皿に手を伸ばした。

「僕も好きだけど…透ちゃんのスピードにはついて行けないや。それに…どうしてもひかり物は駄目なんだよね」
理玖はそう言うと、丁度流れてきた赤海老の皿に手を伸ばした。
「お前贅沢…マグロも中トロばっか取ってるじゃないか、エビだって生エビしか食わないし。
そんなんじゃ、寿司やに行ったら超高くつくぞ。それに比べ、俺は安上がりなもんが好きだから、経済的だろう?」
そう言いながら透太はさんまのにぎりを取り、てらてらと光るそれを口に放りこんだ。

透太は安上がり等と自慢そうに言うが、理玖には手当たり次第にしか見えなくもなく。
それに、透太が喜ぶなら高かろうが安かろうが関係ない。理玖はそう思っていた。だから、何気なくその事を口にする。
「バカだな…そんな事関係無いよ。透ちゃんが食べたいなら、たとえどんなに高価な物でも食べさせてあげるよ」
すると透太が、今度はあじのにぎりを口に入れ不思議そうな顔で、もぐもぐと聞き返した。

「ん? なんでお前が食わしてくれんの?」
「だって、お嫁さんを養うのは夫の役目でしょう。つまり、僕の役目…だって事だよ」
理玖が言った途端、透太は大きな目を更に大きく見開いて、口一杯に頬張っていた寿司をゴクリと飲み込んだ。
筈だったのだが…ゲホ、ゲホッ! ゲボッ!! いきなり咳き込んだ。

どうやら飲み込んだ時に米粒が気管に入ったらしく、顔を真っ赤にして外に吐き出そうと激しく咳き込む。
理玖は慌てて透太の横に移動すると、背中をトントンと叩きながらハンカチを取り出し透太の手にそれを握らせた。
ヒューヒューと変な音を出し、苦しそうに何度も咳き込む度に飛び出す口の中の物…と、鼻水。
それを何度か繰り返すと、苦しそうな呼吸がやっと少しだけ治まり。
透太が涙と鼻水でグシャグシャになった顔を上げ、潤んだ目で理玖を睨みつけた。

「お前が変な事言うから…死ぬところだったじゃないか!」
そして更に吐き出したのは理玖への文句。既に吐き出したご飯粒とネタはテーブルの上一杯に散らばって…酷い有様。
その様子をみていた周りの客たちは、訝しげに、心配そうに…あるいは笑いながら自分たちの食事を再開し。
理玖は片手で透太の背中を擦り、もう片方の手で散らばったご飯粒をかき集めながら、透太の顔を覗き込んだ。

「ごめん…まさかそんなに驚くとは思わなかったんだ。 ほんと、ごめん。でも…大丈夫? 苦しく無い?」
「う……うん。でも…まだ、なんか変…」
透太は涙目を擦りながらそう言うと、またケホケホと何度か咳き込み。
その後大きなくしゃみとも咳ともつかないものと共に、最後の飯粒を勢いよく吐き飛ばした。

そんな目にあったにも関わらず、透太はそれからも何皿かたいらげ。既に苦笑いしか浮かばない理玖に向かって、
「あぁ、美味かった…もう、腹一杯だ」 そう言うと、本当に満足げに笑った。



  透太の葛藤


回転寿司で夕食を済ませ、家に帰ると透太は一直線でテレビの前に座り、理玖はそのまま浴室に行き風呂の準備をする。
それからリビングの隣にある和室に客用の布団を出して二枚並べて敷いた。
それをチラチラと横目で見ていた透太が、とうとう我慢できなくなったのかぎこちない口ぶりで言う。
「なんでこっちに布団敷いてるんだ? お前の部屋で良いのに」
「僕の部屋じゃ、透ちゃんはベッドの下に寝ようとするでしょう。でも此処なら、二人並んで寝られる」

理玖の答えに透太は何も言わず、でも…不自然な動きで視線をテレビに戻した。
画面の中ではアンデットがうようよと蠢きながら、生きた人間たちに集まり出して…ホラー真最中。
それなのに透太の頬は、そんな画面を見ているに不似合いな薄紅色に染まっていた。
そんな透太を見る理玖の口元にはうっすらと笑みが浮かび。理玖は手にしていた枕を一つの布団に並べて置いた。
それから 「まっ…今日は良いか」 ポソッと呟くと、並べた枕をそれぞれの布団の上に置き直した。

毎週見ている番組を二本続けてみた後、透太はテレビのボリュームを下げ浴室に風呂に向かった。
洗面所では既に風呂から出た理玖が、ドライヤーで髪を乾かしている真最中。その後ろで勢いよく服を脱ぐと、
これまた勢いよく浴室のドアを開けた。換気扇がついているせいか、浴室の中は思ったより熱気が籠っていなかったが、
シャワーの栓を捻ると狭い浴室はたちまち湯気で一杯になる。その勢いよく落ちてくるシャワーの下に立ったまま、
頭を洗い、身体を洗い…浴槽に沈みその間なんと10分。宛らカラスの行水だが…。
その後浴室から出てパジャマを着ようとして、脱衣所にパジャマはおろか下着さえも無いのに気づいた。

収納棚に置いてあるのはタオルやバスタオルだけで、洗濯かごの中はさっき脱いだ服。着替えは何処にも見当たらなかった。
昨日はきちんと置いてあったのに…透太はそんな事を思いながら浴室のドアを開け大きな声で怒った。
「理玖、俺のパジャマとって! あ、それとパンツも」 するとリビングから返ってきたのは。
「パジャマはこっちに置いてあるよ」 理玖の声だけでパジャマは届かなかった。

「何だよ…裸で来いってか…」 
透太はぶつぶつ言いながら、ろくに身体を拭かないままバスタオルを腰に巻き、ぺたぺたとリビングに向かう。
リビングでは、やはり上半身裸の理玖がバスタオルを首に、フレーバーウォーターを手に振り向き。
「あ〜やっぱり。透ちゃんったら、また身体拭いて無い。それじゃパジャマが濡れちゃうでしょう。
しょうがないな。良いよ、此処に座って。僕が背中拭いてあげる」
そう言うと持っていたペットボトルをテーブルの上に置き、代わりに椅子の上に置いてあったバスタオルを手に取った。

そして透太は、何の考えも無く理玖の前に背中を向けて座る。なのに…肩にふわりとバスタオルが載り。
そのまま抱きしめられて、キスをされ…なぜか今は理玖と向き合って布団の上。
透太は未だ腰にバスタオルを巻いただけの姿なのに、理玖はパジャマのズボンだけは穿いていて。
それが透太には、自分だけが恥ずかしい姿に思えてならなかった。だからパジャマを…と、思うのだが。
理玖はそんな事お構いなし…どころか、やけに嬉しそうな顔で

「透ちゃんは、叔母さんに似たんだね。外に出ていない部分は色が白いし、肌がとっても綺麗だ」
言いながら理玖の指先が頬を這い…唇をなぞる。そしてその指を受け入れるかのように微かに開いた唇をかわし、
耳元から首筋へと滑る。それは透太にとっては、決して嫌な感覚ではないが今にも身体中の力が抜けて、
溶けてしまいそうな頼りなく不安な感覚で…透太は膝の上に置いた手をギュッと握り、縋るように理玖を見つめた。

「透ちゃん…可愛い…」
「か…可愛く…な…ぃ…」
「可愛いよ…とっても」
指先はザワザワと蠢くものを引き連れて、肩を滑り、鎖骨をなぞるとその下へとゆっくりと滑り。
平らな胸の小さな米粒ほどの突起まで届くと其処で停まり…理玖が独り言のように言った。

「ここも可愛い。小さいのにツンとしている…感じるのかな」
「お…女じゃないから…乳首なんて感じないよ…」
「そうかな。男も女も通っている神経は同じだよ。だったら余計な肉が無い分、感度は良いんじゃないかな。試して見る?」
「い…嫌だ。乳首なんか…」
「それじゃ……透ちゃんが僕のを、触ってみる?」
透太が嫌だと言うのを判っていながら理玖はそんな事を言い。

そして理玖の予想通り透太は、大きな目を幾分細め、口をへの字にしたかと思うとふいと顔を逸らし。
「う…ううう…もっと嫌…だ」 言った顔が泣きそうに歪んでいるようにも見えた。
「だったら、僕が確かめるしか無いか…大丈夫、痛くしないからね」
言いながら理玖の指が動きだし乳首の周りで円を描く。そこは、普段は自分にあると意識した事の無い場所。
なのに…理玖の指が触れると、意識したことも無いはずの其処にじわじわと熱が集まり、ツンと硬くなるのが判った。

それは、下を触られるより恥ずかしい…そんな気がして、透太は顔を上にあげ硬く目を瞑る。
だから、理玖がゆっくりと丁寧に揉み解すようにしながら、頭を前に傾けたのに気づきもしなかった。
そして、もう片方の乳首に理玖の舌先が触れ。その一瞬透太の身体が…ぴくん…と反応する。
すると理玖が、クスッと笑い…何処か楽しげに言った。

「やっぱ、感じるんだ…透ちゃんの此処…」
「ちっ!違う…ちょっと、びっくり…」
「透ちゃん、悪いけど僕の腿の上に座ってくれる?」
「えっ? い…いやだ…」
「もう…透ちゃんは、何でも嫌しか言わないんだね。でも、それも可愛いけど」
言いながら理玖の手は透太の胸から離れ、膝の上で握りしめている透太の手を取って自分の方へと誘う。

そして透太は、ふるふると首を振りながら。それでも誘われるまま理玖の太ももを跨いで上に載る。
肌蹴たバスタオルの隙間には頭を擡げかけた分身があり、乳首は理玖の目の前。
それを強く押し潰され、やんわりと揉まれ…指先で転がされると、胸に集まっていた熱が腰へと流れ満ちてくる。
もう片方には理玖の舌が這いずり、吸いつき、軽く歯を立てられ…喘ぐ声が漏れ出そうになった。

【変だ…女じゃないのに…こんな平らな胸を触られて感じるなんて…】
そう思いながらも、理玖の手が前に来て欲しい…早く下も触って欲しい…そんな事を望んでしまう。
無意識に自分の身体を理玖にすり寄せ…股に触れる硬い物を感じて。
あぁ…理玖も…勃起してる…思った途端、なぜか嬉しさと切なさが押し寄せてくるのを感じた。

「透ちゃん…もっと前に来て僕にすり付けていいよ…」
理玖が透太の腰に手をまわし、前へと引き寄せながら囁く。それは、甘美な悪魔の誘惑にも聞こえたが。
透太はそれに誘われるように、理玖に腰を摺り寄せゆらゆらと揺する。
胸への刺激は止む事なく、じんじんとした痛みにも似た疼きは益々強くなり、腰の動きもそれに連れて激しくなる。
触れるか触れないかがもどかしく、更に密着し…そして、理玖の硬いものと擦り合った一瞬、透太の中で何かがはじけ。

「あっ…ああぁ…ぁぁ……」
背を仰け反らせ、滾る熱いものを理玖の腹に吐き出してしまった。

【嫌だ…俺って、変態だ。男のくせに乳首を触られていっちまうなんて、かっこ悪る過ぎる】
それなのに、確かにあの一瞬思った。自分の身体が理玖を熱くさせている…と。
いつも冷静で穏やかな理玖が、自分に触れる事で興奮し男を顕わにする。それを感じた時…嬉しいと思い。
胸がぎゅっと締め付けられ痛くなるような気がした。
【やっぱ、俺…なんか変だ…】
理玖の肩に頭を載せたまま、顔も上げられない透太の耳に、なぜか嬉しそうな理玖の声が囁く。

「透ちゃん、感度良すぎ。乳首だけでいっちゃうなんて、思った通り素直で敏感な身体なんだね。
でも、とっても上手に出来たから、ちゃんと身体に覚えさせて置こうね」
そんな、透太にとっては意味不明不明な言葉に、【はぁ?身体に覚えさせるって…何だよ】
物憂げに頭をあげると、頬を挟まれチュッとキスをされた。

「今度はちゃんと、下も触ってあげるから横になって」
「えっ? い、良いよ…もう、出しちゃったし…それに、理玖の腹…ゴメン」
「いいよ、拭けば良い事だからさ。透ちゃんの出したものだからちょっと勿体無いけど、しょうがないね」
そう言って理玖は自分の濡れた腹を指でなぞると、その指をぺろりと舐めた。

そんな理玖の行動に透太の恥ずかしさは更に増して、顔を真っ赤にし消え入るような声で言う。
「……。そんなもの舐めるなよ…汚いだろう…」
「そう?そんな事ないと思うよ。だってこれは、透ちゃんの一部だもの。そう思うと、これもまた美味だと思うよ」
「そんな…俺も変だけど、お前も変だよ。まだなんだろう理玖は…昨日みたいにして出していいよ」
そうする事で恥ずかしさから逃れるように、透太はゆっくりと理玖の腿から身体をずらし側にあったテッシュを数枚取った。
それで理玖の腹を拭い、腹から伝わったもので汚れたパジャマの上の部分までゴシゴシと拭く。

嫌でも判る、その下にある理玖のものから意識的に目をそらし、テッシュを丸めて屑篭に放ると
透太は其処に仰向けになった。目の裏に焼き付いている理玖の分身…ほんの少しだけそれに触れてみたいと思った自分。
それら全部を追い払うように、両腕で顔を蓋うとぎゅっと目を閉じた。
「透ちゃん…どうしたの? 嫌だったら無理しなくていいんだよ」
理玖が透太の髪を撫でながら言う。その声がいつもと同じように優しくて、なぜか理由も無く泣きたくなる。

理玖は…本気で嫌だと言えば無理強いはしない。それは透太の中で、絶対と言って良いほどの確信でもあった。
それなのになぜ、自分は嫌だと言えないのか。本当は言えないのでは無く、言いたくないのでは…。
そしてその理由を考えると、得体の知れない不安が押し寄せてきそうな気がした。
だから行き場の無い矛盾と戸惑いは、声になって、理玖に向かって…吐き出される。

「そんなんじゃない…いいから、早くしろよ」
「……そう…判った。それじゃ、昨日みたいに脚を閉じててね。でもその前に、透ちゃんにキスしたい…良い?」

そっと両腕を掴まれた顔に、理玖の唇が降ってくる。額に、頬に、目に…そして唇に。
大きな手が優しい…見つめる目が優しい。声が優しい…笑顔が優しい。温もりが……優しい。
理玖の指先が快感を紡ぎだし、自分の肌が、身体が…それを喜び、震える。
変だ…こんなの…俺は女じゃ無いのに。男なのに…。

それでも理玖の首に…背に腕を回し、甘い吐息を漏らししがみつく自分は…へん…だ…。



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