体育祭−1


今日の議題は、体育祭の 【競技の選抜と進行】 について話し合うのだが、
男子が多いせいか、どうも花がないというのが、毎年決まって出る意見だった。
いっそ男子だけなら、それはそれで、良いのかも知れないが…少ないながらも女子は存在している。
だから尚更、難しいというのもあった。

「はい…男子が馬になって、女子を担いだ騎馬戦」  誰かが言い。
「馬鹿!それじゃセクハラだって言われるぞ」  誰かが言う。

「じゃ、男子が立てた棒を女子が倒す棒倒し」  
「それも、おなじだよ…お前は、女子に触りたいだけじゃないのか?
そんな事をしてたら、自分の棒が立っちまうだろう ひゃははは…」  本当に…こいつらはどうしようも無い馬鹿だ…。

「すけべ…お前の方こそ厭らしいな」
「俺は、あんな女子じゃ立たねぇよ…あいつら、めっちゃ恐ろしいから。
この前も、2−C の○○の奴が、因縁付けられていたからな。 超怖いでやんの」

「あぁ…あいつは、2−Bの、××と付き合っているって噂だからな。 ××は、女子の間では、結構人気があるらしくてさ、
そのせいで、○○の奴、何かと女子に、嫌がらせされているみたいだぞ」
「げっ! マジかよ・・○○は男だぜ。 だから××だって、正面切って庇うのは、後ろめたいんじゃねぇの」
話はどんどん逸れていき、おばさんたちの噂話状態に近く、そのせいか議題は一向に捗らない。
三里はいい加減呆れてしまい、一言言おうとした時、村澤が口を開いた。

「会長! こんなくだらない話で時間を食うのは勿体無いと思います。 さっさと議題を進めましょう。
そこで、俺からの提案なんですが、一応去年の種目を基準にして、
クラス毎に、新規にやりたいものがあるかどうか、話し合ってもらう…と、いうのはどうでしょう。
その結果で、生徒会がもう一度見当する。 その方が皆の意見も反映出来ると思います」
一応副会長らしく、結構まじめな顔で、まともな意見を言う。

【う〜ん 良いタイミングで言ってくれたね…少しばかり見直したよ村澤君。 これは、ポイントアップかな】
と。心の中で三里が呟く。 ところが、何処にでも絡みたい奴はいるようで、

「村澤! 随分と偉そうに言ってくれるじゃないか…くだらないって、どういう意味だよ」
誰かが、村澤に向かって不満そうな声で文句を垂れ、それで又、三里の顔が呆れ顔に変わり。
【おいおい…それじゃ、またまた先に進めないのよ…】 心の中でぼやいた。

「別に、偉そうとかそういう事じゃ無いだろうよ。 ただ、ムカつくんだよ。
誰と誰が付き合おうと、それは個人の自由だし、人がとやかく言う事じゃないさ。
けど、相手が男だろうが女だろうが、自分の惚れた相手は守るのが当たり前だろう。
それなのに、相手だけを矢面に立たせ、自分は知らん顔しているなんていうのは、最低だ。
腹を括った覚悟もないくせに、男に手を出すような男は、糞以下だと思う」

【へぇ〜 こいつ…結構言うじゃないか。 童貞のわりに、根性入ってるんだ】
三里は、村澤のちょっと怒っているような顔を見つめながら、そんな事思っていた。

「それじゃ、聞くけど…お前が、会長を追いかけまわすのは、どういう事なんだよ」
「俺は、会長を追いかけ回してるんじゃない。 正々堂々と、口説いているんだ。
会長は、それを認めてくれて…俺の挑戦を、受けてくれているだけだ」

【はぁ〜 口説いてね…。 僕は、口説かれた覚えはないけどね】

「何が挑戦だよ! 会長にちょっかい出してみたものの、全然相手にされてないじゃないか。
いくら文武から転校して来たなんて言っても、会長には敵う訳ないんだから、
良い加減諦めて 引っ込んだ方が良いんじゃないのか。 じたばたしているのは、みっともないぞ」

【まぁ、それもそうなんだけど…結構楽しいんだよね…村澤くんて】

「みっともなかろうが何だろうが、俺は止めるつもりは無い。
絶対認めさせてやるよ。 俺が、三里の側に居るのに相応しいって事を」

【僕の側に? 側に…って。 そこには…もう…・】

「村澤! お前、本気でそんな事思っているの? ふざけるな! 会長は…」
放っておくと、どんどんエスカレートして、いつまでも止みそうにない言い合いに、とうとう三里は、

【おいおい、いい加減に止めてくれないかな。 それ以上 村澤君に何か言わせたくないんだよね。
だって…彼の言葉は…少しずつ 僕を侵食するから…】

「まぁまぁ…その辺で議題に戻ってもらえないかな。
話が大分逸れてしまっているから、このままじゃ、何時まで経っても終わらないよ。
確かに、本校は女子が少ないから、少しむさくるしい感じはするけど、それはそれで楽しい事もあると思う。
だから…みんなで、協力しあって楽しめる体育祭にするように、頑張ろう。

そういう事で、とりあえず今日は副会長の意見を取り入れて、クラスで話し合うという事にしたいと思います。
昨年の競技に関する資料は、明日までに作成して各クラス委員に配布します。
今週末には、それを持ち寄って決定したいと思いますが、どうですか?」

三里の、言葉で一瞬にして険悪な空気が消えた。 そして、いつだって意義を唱えたり、逆らったりする者はいない。
それが、三里の持つ指導力なのか、それとも別の何かなのか判らないが、
おそらく三里には、決して独断とは感じさせずに従わせる…何かがあるのだろう。 だから、誰も異を唱えない。 
三里は、村澤の提案を皆に伝えると、にっこりと笑って会議を終了させた。

「なぁ、また怒ってるのか?」
会議の後の机を片付けながら、村澤はチラリと三里の顔を盗み見るようにして言う。

「別に…なんで?」
「だって、機嫌悪そうだから」

「これが、僕の素顔だから、別に気にしないで欲しいんだけど…」
「やっぱ、怒ってるじゃないか。 俺があんな事言ったからか?」

「…君の言った事なんて、眼中にないから、心配しなくて良いよ」
「それって、最悪に怒ってるって事だよな」
すると、机を元に戻し終えた三里が、いつもの嫌味な笑いを浮かべ、真っ直ぐに村澤を見つめて言う。

「自惚れないでほしいな。 君の言動で、僕の感情が動く事ことは無いからさ」
「な!なんだよ、その言い方!! それじゃ、俺はまるっきりの馬鹿みたいじゃないか」

「そうかな 良いんじゃない? お互い楽しんでいるんだから」
「…・お前ってホント、俺にだけは憎たらしい、最低最悪の奴なんだな。 けどまぁ、それも良いけど…。
憎たらしさも、最低最悪も…お前の一部なんだろうからさ」
その言葉に、少しばかりの驚きを隠して、

「………・・じゃ、お疲れ様…」  三里はそう言って生徒会室を出て行く。
その後を追うように、村澤は三里の背中に声をかけた。

「だけど、お前いつも、月、木は急いで帰るのな…予備校でも行ってんの?」
その一瞬、三里の肩がピクリと震えたように見えた…が、
「僕が、そんなもの行く訳ないだろう…それじゃ、僕は急ぐから」  
三里の、」いつもと変わらぬ声に…気のせい…だったのか。 村澤は思い直した。

足を早めた背中に、視線が痛い…と思った。 こんな事も始めて…だから、あいつは楽しい。
だから、僕は戸惑う…だから、僕は鎧に身を固める。

 

  体育祭−2

クラスで話し合った結果を纏めてみると、体育祭の種目は概ね例年通りだったが、
障害物競走に代って、二人三脚が採用される事となった。
但し、拾ったメモに書いてある条件に合った人物を探し出して走る…という点では、
今までの障害走と、変わりないようにも思えた。

競技名は、ベタに『家族でGo』  メモにある条件の妻(髪が長い)と 子供(男の子)を探して、
夫婦?二人三脚で、子供の手を引いてゴールまで…まっしぐらという、
お遊びゲームのような競技だが、一応女子との二人三脚というのが、採用の要因?だった。
そして今日は、役員全員が、二人三脚のメモの条件に頭をひねる。

「どんな条件を書きます? あまり特定の人物をイメージしては、不味いですよね」  
書記の中村が、一応それらしい意見を言う。
「そうだね、だからと言って、うちの学校の女子に当てはまらないような条件も駄目だよね。
茶髪とかピアスとかさ。 出来たら、女子なら誰でもクリアできるようにしたいな」
三里が、それとなく女子の反応を考慮した事を言っている先から、 自分勝手な意見を言うものがいる。

「俺は、美人の女房と、賢い息子が良いな…」  
「僕は、可愛い奥さんと、可愛い女の子かな」

「それって、自分の希望じゃないのか?」
「まぁ、そういう事になるのかな。 けどよ、皆もそう思っているだろう?」  と、同意まで求める者がいて、
【あぁ、又か…どうしてうちの役員は、こうも議題から脱線するのがすきなのだろう】
三里は、はあ〜と、ため息を吐くと、何気ない様子で視線を窓の外に向けた。

三里の隣には、村澤と中村が座っていたが、村澤は左右の目で別々の方向を見ているような顔で
何かを考えているようで、今日は大人しく…その代わりでも無いだろうが。 

「まぁまぁ先輩・・これは競技ですから。 個人的要望はこの際横に置いておいて、
とりあえず、書いては不味いものを、挙げてみたらどうでしょう。
やはり…容姿に関する形容は、ちょっと不味いのではないでしょうか」 
【おぉ! さすがは中村くん。 一年ながら出来すぎくんの化来があるけど、良い事を言ってくれたね】

「そうだな…女は怖いからな。 それじゃ、髪が長いとか背が高いとかなら、OKじゃないか?」
「だったら、ショートカットも良いんじゃないか?  あと、健康的とか、明るいとか」

「う〜ん。 まぁ、無難だろうけど…難しいな。 目で見て分かる条件でないと、探せないだろう」
「だったら、クラス名と出席番号にするか? それなら、問題ないだろう」
と、やっと軌道修正した意見が出始めた…が、
やはり最後まで黙っているのは無理だったようで、村澤が、口を開いた。

「そんなに、深刻に考えなくても 選ぶ方の主感で良いんじゃないか? 
後でその条件を見た、選ばれた人が不快に思わない程度だったら。
可愛い…条件で選ばれた女子は喜ぶだろうけど、選ぶ方はそれどころじゃ無いと思うけどな。
とにかく、少しでも速く誰でも良いから選ばないと…そう思うだろうからさ」
すると、中村がそれに賛同するように言う。

「そうか競技ですもんね。 案外近くに居る女子なら、誰でも良いと思うかも知れませんね」
「けど、二人三脚で走るんだぜ…やっぱ、ある程度は選びたいよな」

「それならそれで良いんじゃないか? 見るほうも面白いと思うし」
「そうかも知れないね・・それじゃ、そう言う事にして決めようか。 後でメモを見た女子が怒らない程度で、
条件と著しく違っていない事…それで良いですか?」

出された条件は、10項目程度…それを何組か作ってコース上に置く事にして。
役員全員が、それを一通り書くと、それでどうにかメモは出来上がった。

「後は、体育、放送、保健、それぞれの委員と、細かい打ち合わせをする事にして
今日はこれで終わりにします…お疲れ様でした」
三里の解散の声に、みんな三々五々生徒会室を出て行く。 そして、最後に残ったのは三里と村澤の二人。
集めたメモを、それぞれ封筒に入れながら、三里はその中の何枚かを開いていた。

「誰? こんな事を書いたのは。 秋空に舞う蝶…鬼畜な微笑み…凍る瞳のマリア…何?これ」
メモをひらひらと振りながら、思いっきり不審そうに言う。
「あぁ、それ? 俺だけど。 誰を選んでも良いようにと思ってさ」
村澤の答えに、やっぱり…三里はそう思った。

「…・こんなもので、誰を選べると思う? 誰も選べないし、選ばれても困るに決まっているだろう」
「そうかな、案外誰かが誰かを選ぶかも…面白いと思うけどな」
確かに、全部が開かれる訳ではない…でも、開かれる可能性もある…としたら。

「…・じゃ…・この『鬼畜な…』 は止めて置こう。 選ばれた女子が怒るよ」 
三里はそう言うと、メモの一枚を二つに折って自分のポケットに入れた。

「そうか? それが一番似合うと思うけどな、俺は」  村澤がニヤニヤしながら言う。
「誰に?」 

「妻に」
「だったら、侮蔑な…だろうね」

「そうか…そうかもな」  
【自分の事は自分が一番良く判っている…ってか。 けど、本当に判っているのか? 
お前が俺に向ける笑みは、いつもそれだよ】 村澤は心の中で呟きながら、まったく別の事を聞いた。

「今日は、早く帰らなくて良いのか?」
「うん、別に…。 だから、村澤君は部活に行っても良いよ、後は僕がするから」
広げた残りのメモを封筒に戻し、糊付けしながら三里が言うと、村澤はカバンを肩に担ぎ、
「今日は、部活は休む事にしてあるから大丈夫だ。 だから、三里も帰れるんだったら一緒に帰らないか」
三里が、思ってもいなかった返事を返してきた。 それに、少しだけ戸惑いながらも、

「そう…いいよ。 じゃ、これを先生に預けて行くから、昇降口で待っていてくれる?」  三里が言うと、
「そっか、解かった。 それじゃ、先に行って待っているから 早く来いよ」  
村澤はそう言うとニッと笑い、教室を出て行く。 考えてみると、村澤と一緒に帰るなんて事は始めてだった。
だから、少し…驚いただけ…。
三里は、封筒を糊付けし終えると、自分の座っていた椅子と机を端に寄せた。

三里は、週に二日だけは早く帰るが、それ以外はほとんど毎日と言っていいほど、
放課後も生徒会室に居る事が多かった。 
生徒会の仕事が無くても、そこで勉強をしたり…本を読んだり…眠ったりする。
部活は何処にも所属していないし、サークルにも入っていない。 スポーツは、苦手でも嫌いでもなかったが。
部やサークル活動をしていると、週に二日休む事は出来ない。 だから…残りの4日を此処で時間を潰した。


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