―愛しい想い―


家の前に立ち、少し先のドアを見つめ、自分の心臓の音を自分の耳で聞く。
俺の心臓ってでかそう。そう思えるほど、音はどくどくと耳に響き、息をするのも苦しいような気がした。
でかいというより、蚤の心臓かな? だって、こんなに緊張しているんだから。
このドアの先に待つものが、同じ未来に繋がっているように。村澤はそう願いながらドアに手をかけた…が。

は? 開かない。押しても引いても、ドアはびくともせずガチャガチャと音を立てるだけ。
「嘘だろう? 締め出しかよ! 話が違うだろう!」
尚もノブを握って、ガチャガチャと押してみる。それから引いてみる……と。
カチッ 小さな音と共に、いきなり引いたドアが村澤の顔面を直撃した。

「イッ! 痛ってぇーーー!
何すんだよ!!」 目の前に現れた、顔に向かって文句を言うと
「何してんの? 一人で…」
嫌みったらしい顔と、小ばかにしたような声で、三里はそう言った。
「なんで、鍵締めてんだよ! 締め出されたのかと思ったじゃないか」
言いながら、村澤がドアのぶつかったおでこを擦りながら、恨めしげな目で三里を見ると、
「普通、ドアロックぐらいしてあるだろう? インターフォン鳴らしたの?」
しれっとそんな事を言われ、村澤はそこでやっと気づいた。

「えっ? あっ……そうだ。 鳴らしてなかった」
「やっぱり。いきなりドアが もの凄い勢いでがちゃがちゃ鳴り出したから
もしかしたら、と思ったけど…人の家の訪ね方も知らないの?」
と、やはり……嫌味全開の三里の顔に、村澤は全力で負け惜しみ見え見えの態度で、
「お、俺は、鍵なんて閉めないから」
言い訳にもならない言い訳をして誤魔化すが、三里はそんな村澤に言い訳など聞いてもいなそうに、
「そう……どうでも良いけど、いらっしゃい」
そう言うと、背中を向けすたすたと中に入っていく。

【どうでもよくねぇよ!っつか、人の話聞けっつうに!! まったく…相変わらずの女王様かよ、おめぇは!】
心の中で毒吐きながらも、すごすごと三里の後に付いて中に入り、靴を脱ぐ……と。
「あっ! ドアの鍵、閉めておいてよ」
三里がくるりと振り向き、いきなりの命令口調で言った。
「………。 そういうことは、先に言えよな。 靴、脱いじゃったじゃないか」
「そんな事、言わなくても当たり前だからね。 でも、もしかしたら…と思ったからさ」

【ほんと! 可愛くねぇ!!!】
口の中でぶつぶつ言いながら、村澤がドアに鍵をかけ振り向くと、既に三里の姿は無く。
一人静々と以前入ったことのあるリビングに向かう。
この前来た時には、別に何も感じなかった其処が、今日はなぜか息苦しく。
ぴったりと閉められたカーテンが、この部屋を外から遮断して別世界を造り上げている。
村澤はそんな気がして、少しだけカーテンを開き窓の外に目をやった。

だが、目に映ったのは庭の植え込みとその下の一際暗い陰。それが冥界へ続く闇のように見えて、
村澤は、ぶるっと身震いすると、少し先にある隣の家の明かりに目を移した。
それから、更に先の街灯へ。空を振り仰ぎ其処に星が見えると、自分が世界と繋がっている事にホッとする。
そして、大きく息を吐きだすとカーテンを元に戻し、ラグの上に座っている三里の隣に並んで座った。
三里は、その村澤の顔を覗き込むように見て、
「額、赤くなっているね。 痛い?」
可愛らしくも憎たらしい薄笑いを浮かべて聞く。 村澤は、徐にテーブルの上のカップに手を伸ばし、
それを手に取ると、横目で恨めしそうに三里の顔を見る。そして、

「そういう時は、少しは心配そうな顔をするもんだろう?」
拗ねたような口調で言いながら、カップに口を付け砂糖の入っていない紅茶を一口啜る。すると三里が、
「そう? でも、心配してないから、しょうがないよ」
浮かべた薄笑いを消すことも無く、可愛い顔とは正反対の可愛げの無い事を言う。
どうしてこの顔で、こういう憎たらしい言葉が吐けるのだろう。村澤はそんな事を思いながら、

「そりゃ、自分がドジったんだからしょうがないけど、結構痛かったんだぞ」
そう言うとカップをテーブルに戻すために、少し前屈みに手を伸ばした。 その時、
「そうだね。 じゃ、お呪いしてあげる」
三里の顔が近づき、村澤の額に柔らかいものが触れ、
えっ?  カチャ と、カップがソーサーの上に音をたてて落ちた。
「ふふ…お呪い。 これで、もう痛くないよね」
自分の額に手をあてて三里を見つめる村澤の目に、三里の嫌味な薄笑いは、なぜか可愛い笑顔に見えた。

ゲームも会話も、殆んど上の空。準備されていた夕食のビーフシチューも、美味いのか不味いのか。
ぜんぜん味がしなくて、無意識に口に運んでいるだけで。
ただ、三里の私服姿が、随分子供っぽいな。村澤は、そんな事だけを思っていた。
「ねぇ、さっきから僕の事をじっと見ているけど……なんか変だよ」
三里が、村澤の目の前に顔を突き出すようにして言う。

「おわっ! そ、そんなに近づくなよ。 びっくりするだろう!」
村澤は思わず仰け反り、それから逃れると、三里がニッと笑い妙な目つきで言った。
「僕、お風呂に入ってこよう。 ねぇ、君も一緒に入る?」
「ばっ!ばか!! 入る訳ないだろう!!! ひっ、ひとりで入るよ」
出た声が妙に上ずって、今にも裏返りそうなのが自分でも可笑しいと思いながら、
笑う余裕も無い村澤に、今度は三里の冷ややかな声が続く。

「そう、つまんないの。 だって、兄さんとは一緒に入ったじゃないか。
裸で……。それも兄さんを膝の上に乗せて喜んでいたじゃない」
「よ! 喜んでなんかないぞ!! それに、膝の上になんか乗せてない! 変な事言うなよ」
「そうかな、とっても嬉しそうに見えたけど。でも、やっぱり面白いね、君って」

からかっているのか、それとも本当にそう思っているのか、三里はそんな言葉を残して、
ひらひらと手を振りながら浴室に向かう。村澤にはそれが、ひどく頼りなげに舞う蝶のように思えた。
なんで、こんなに緊張しているのか、村澤は不思議でしょうが無かった。
全ての事が、現実ではない出来事のように、ひどくあいまいで頼りなく感じられ。
その中で、三里の存在だけがやけにリアルで、そのリアルに今にも押しつぶされそうな気がした。

「はぁ〜 こんなんであいつの本心、確かめられるのかな……俺は」
そんな愚痴めいた呟きが口から洩れ、いっそ心の伴わない関係の方が、簡単で楽なように思えてくる。
そして、それに自分が流されてしまいそうで、村澤はいつになく不安な気持ちだった。
【やっぱ、本気の恋愛は楽じゃないな……。
それでも、三里を未来に向かわせるために、あの蝶を?まえなくては】 自分に言い聞かせた。



  ―誓い


濡れた髪を拭きながら、風呂から出てきた村澤に、三里の宣言とも取れるようなる言葉が告げられた。
「僕は、君の恋人でもないし、特別の関係でもないから、君の自由になるのはこの一回限り。
後は今まで通り、今までどおり只のクラスメートだからね」

首に巻きつけた湿ったタオルは、じっとりとした不快感を全身に広げようとしていた。
だから村澤は、それを外すと側にあった椅子の背にかけ、三里の目を真っ直ぐに見つめて聞く。
「それは、約束だから。そういう意味なのか?」
「それ以外に、こんな事をする意味が無いだろう?」
答える三里の、パジャマの前が少しだけ肌蹴て、其処から見える首元の白さが目に痛い。

「………。 俺にはある。 俺は、お前が好きだ。お前と一緒にいると楽しい。いつだってわくわくする。
自分を偽らなくて良い、自然のままの俺でいられる。あんな約束なんて関係ないよ。
俺は、お前が好きだから俺のものにしたい」
一気に言ってしまうと、村澤は少しだけ気持ちが楽になったような気がした。
「………」
だが三里は、それには答えず黙ったままで。だから村澤は続けて言う。

「だから、一回きりで後はただのクラスメートなんて、俺は嫌だ。 ずっとお前と……。それが無理なら、
約束なんて無かったことにする。あんな約束でお前を自由にしても、それこそ何の意味も無いからな」
それは、村澤が確信した自分の本当の気持ちであって、それ以外の答えを見つけることが出来なかった。
すると三里が、絞るように声を出し言葉を吐きだす。

「………。 それでも、約束は守ってもらう。僕はその一回で、何も無い未来を生きていける。
僕が未来を生きる為に……どうしても必要な事だから、守ってもらうよ」
そう言いながら、三里の目からは大粒の涙が零れ落ちた。
「………三里……お前…」
もしかして、お前も俺のこと好きなのか! 村澤は思わず声に出しそうになりながらも、
自分が口にしようとした言葉を飲み込んだ。そして、その言葉の代わりに、そっと三里を抱きしめる。
ほっそりとした身体が、少しぎこちなく村澤の背中に腕を回し、胸に顔を埋めると小さく震えながら、
涙で村澤のパジャマを濡らした。


「寒いよ……」
三里が、膝を窄め両手を股の間に挟んだ格好で村澤を見上げて言う。
「う〜ん、やっぱ同じだな。俺と変らないよな。乳も無いし、ぶら下がっているものも同じだし。
どう見たってお前も男だよな。」
産まれたままの姿で、仰向けに寝かした三里の横に座って、
三里の頭のてっぺんから脚のつま先まで眺めて、村澤は首を捻る。
いくら暖房を効かせているとは言え12月である。素っ裸で横たわっているのは、やはり寒すぎる。
三里は、村澤が何を考えているのか理解できず、思わず声が尖ってしまった。

「だから、寒いんだってば! どうしてこんな格好で、お前に眺められてなくちゃならないのさ!」
「うん。なんで男のお前相手に勃起するのか、不思議でしょうがないんだ
お前とキスしたり、抱きしめたりしただけで、ほら、こんな……おかしいだろう?」
村澤はそう言って、自分の股間を指差す。確かに、其処には既に頭をもたげている、立派?なものが…。
それに比べ三里のものは、先ほどからのイライラと寒さで、うな垂れたまま。

「ば! ばか!! 変なことばかり考えてないで、さっさとしなよ。
勃起しているんだったら出来るだろう。そうじゃないと、寒くて風邪ひいちゃうよ」
三里は、チラリと村澤の股間に目をやると慌ててそれから目を逸らし、プイと反対の方に顔を背けた。

あいつのメッチャでかくないか? あんなものを入れられたら、マジ切れちゃうよ。
明日の朝の事を考えたら……ちょっとヤバいかも知れない。でも……酷くされた方が。二度と御免だと思えるように。
そうでないと僕は……。壁をみつめたまま、そんな事を考えている三里に、
「分かったよ。 けど、三里。 俺さ…みっともないけど、初めてなんだ。一度もやったこと無い。
ぶっちゃけ、童貞なんだわ、俺。 だからさ、上手く出来ないか知んない。
お前に痛い思いをさせたり、辛い思いをさせたりするかも知んない
気持ちよくしてやれなかったら…なんて考えるとさ、ちょっと、びびってんだ。かっこ悪ぃだろう?

けど、お前を大事にしたい。それだけは本当だから、嫌だったら嫌だって言ってくれよ。
そしたら、無理にはやらないから。お前を抱いて一緒に寝るだけでも、俺は満足だからさ」
村澤が言い。その言葉に、股間を勃起させて、言う台詞じゃないだろう……と三里は思う。
なのに、それが一番村澤らしい……優しくて、悪意の一つも持たない馬鹿で……と思い。
その優しさに、馬鹿さ加減に縋りたいと思ってしまう。

「そんな事……。なんで、そんな事ばかり言うのさ。優しくなんかするなよ。
僕が嫌がっても泣き喚いても、無理やりしろよ。ねじ伏せてやっちゃえよ。その方が、ずっと優しいのに。
君に優しくなんてされたら、余計辛いよ。苦しいだけだよ。それじゃ僕は、益々君から逃げられないじゃないか」

「三里、ごめん。 でもな、俺から逃げるなんて思うなよ。お前がどんなに逃げても、俺は追いかけるからさ。
どこまでも追いかけて、必ずお前を捕まえる。だから、逃げないで俺の手を掴めよ。絶対離さないから。
俺は、お前の犬になるって言っただろう? 犬は逃げるものほど、必死で追いかけていくんだぞ。
お前は、俺のリードを握っているだけで良い。俺がお前の前に立って、後ろに廻ってお前を守る。
だからお前は、俺の飼い主だって事を忘れなければ、それだけで良い」

後ろから注がれる声が、言葉が三里を包み込み、そっと伸びた手が三里の髪を撫でる。
有無を言わせぬ力強い言葉は、三里が一番欲しかったもの。
優しく温かい手は、一番安心できる温もり。その温もりを拒むことなど出来なかった。
頑なまでに、自分で絡めた鎖に縛られ断ち切ることも出来ずにいた三里を、解き放つその温もりに、
僕は……君と同じ未来を歩みたい。 三里は今、そう望んでも許される気がした。

「……全く。呆れてしまう馬鹿犬だね。童貞のくせに男の僕を抱こうなんて。
しょうがないから協力するよ。その代わり、最高の頂まで僕を飛ばしてよね」
振り向いた涙に濡れた瞳が村澤をみつめ、三里は村澤に向かって両手を伸ばした。



  ―未来への一歩?


終始三里にリードされ?追い立てられるようにいってしまった。
挙句に三里からは 「僕が抱いてあげようか?」 などと言われ、村澤はすっかりしょげてしまうが。
まぁ、初めてなんだからしょうがないか……などと自分で自分を慰めてみる。
それでもやはり情けないというか、かっこ悪いというか……そして、ふと思った。

【それにしても三里の奴、やけに慣れているような……気がするけど。フェラだぞ、フェラ。それも男のものを。
普通、ちょっとは迷うんじゃねぇか?なのに、いきなりペロッ!ベロベロ、パクッ! あげくにずずずーーーだもんな】

思いながら、村澤は自分の情けなさと、三里への少しの不審?も手伝って、
「三里、ゴメンな。 お前にばかりやらして。次は俺が頑張るからよ。
けど……お前、こういう事しょっちゅうしているのか?」
思わず口に出してから一瞬 【ヤバイ!】 と思ったが、三里は怒る様子も無く。
それどころか、ポッと顔を赤く染めると慌てたように、

「バッ、バカ! するわけないだろう!」
と言って、ふいと村澤から目をそらす。今まで見たことも無い三里……そう思うと、なぜか嬉しくなって、
「そうか? なんか、すっげぇ上手いからさ。 慣れているのかと思っちまったよ」
村澤が態と探るような目で言うと、三里は
「うっ、上手くなんかないよ。 ただ、君が気持ちよさそうだったから……つい…」
そう言いながら、細い指先で自分の唇をそっとなぞる。そのしぐさが、頬を染めて恥らうような表情が、
たまらなく可愛らしく思えて、村澤はその手首を掴んで引き寄せると強く抱きしめた。

【そうか。俺が気持ちよさそうだったから……】
―痛みを与えたら、その何倍も愛してやれば良いんだよ― 坂入の言葉が脳裏を過ぎった。
【そうだよな、そういうことなんだよな。相手を思う気持ちがあれば、上手くいくんだよな。
よし! 今度は俺が、三里がしてくれたのの何倍も、気持ちよくしてやるからな】


「あっ あぁ……やだ…そこ……」
三里が、クーッと仰け反るように背を浮かし、腰を浮かす。
「痛いか? 痛かったら言えよ」
「んん…い、いたくないけど……変…。 気持ち悪い……」
「気持ち悪い? そうか? でも、さっきから一杯出ているぞ。まるで、ところてんだな。
此処を押すと、先からだらだら出てきて止まんないぞ。舐めても、舐めても、出てくる。湧き水みてぇ」
村澤がそんな事を言いながら、三里のペニスをぺろりと舐め、アナルに埋めた指を動かす。

「ばか!変なこと言うなよ。 あっ! はぁぁ また……」
くちゅくちゅと中を掻き回す音がやけに耳に響き、三里の少し掠れたような声が、泣いているように聞こえた。
「そろそろ、良いかな。大分柔らかくなったみたいだから。
三里…ちょっと入れてみるぞ…・もし、無理だったら言えよ」
「う、うん。 あ…あのさ。後ろからにしてくれる……」

「何でだよ。 それじゃ、お前の顔が見えないじゃないか」
「だから……それが嫌なんだ…」

「……三里も馬鹿だな。 顔が見えなかったら、お前が辛いのも判んないだろう?
それに、お前と俺が繋がった時、ちゃんとお前の顔を見て確認したいんだ。俺達は、同じ未来を見ているんだってさ」
「………。 ごめん、解った。 それじゃ、一緒に僕たちの未来を見よう」

三里の腰に枕を差し込むと、尻がもう少しだけ上がり足が宙に浮く。
村澤は、もう一度アナルの入り口にジェルを落とすと、そこに自分の起立しているものを押し当てた。
それから確かめるように三里の顔を見ると、三里はきつく目を閉じた顔を壁に向けたまま、
手が、無意識になのかシーツを握り締めている。 
【だよな……。 やはり、緊張しているんだ】
村澤はそう思いながらも、ごくりとつばを飲み込むと、三里の中へと腰を突き出した。

うっ! うわっ。 きっ!きつい……。 い、痛ってぇー!
頭の先だけどうにか押し込んだものの、想像以上のきつさにもう一度三里を見ると、
ぎゅっと目を瞑り、歯を食い縛るように口を閉じて……シーツを握り締めた両手が、ぷるぷると震えていた。
「みっ! みさと!!」
村澤が思わず三里の名前を呼びながら、震えている手を握ろうとした途端。
「ああ! いっ! だ…大丈夫……。 だから、ちょっとだけ…動かないで」
答えた声まで震えて聞こえた。

「大丈夫じゃないだろう! 今抜くから」 そう言って、村澤が腰を引こうとすると、
「やっ! 止めて!! ちょっと待てば…平気だから……動かない…で」
三里は掠れた声でそう言うと、はぁはぁと何度も息を吐き出す。そしてその目からは涙が溢れ。
零れた雫は、シーツまで伝わり落ちると小さなしみを作った。

二進も三進もいかないとはこの事だと実感した。嵌まったきり、引こうにも進もうにも動けないのである。
それも頭が。なんか、輪ゴムでもはめられているみたいに、ジンジンと痺れてくるようで。
なのに、それなら萎えてもいいだろうと思うのに、一向に萎えそうもなく。
突然村澤の頭の中に、以前聞いたことのある話が頭に浮かんだ。
いたしている最中に、女のあそこが急に収縮してしまい、抜けなくなってしまい、
繋がったまま救急車で運ばれたっていう、笑えるようなめちゃくちゃ恥ずかしい話を。

【ヤバイ……。 このままだったら、救急車なんて事に。 もしそんなことにでもなったら、三里が可哀想だ。
その時は、俺がむりやり強姦した事にして、三里だけはホモの汚名から守らなくては…。
等と考えているのに……全く! なんで俺のチン○は縮まないんだ!!】
苦痛に耐える三里をみながら、村澤は自分のいきり立ったままのペニスが恨めしく思えた。
だがその時、
「あ…あのさ。少し楽になったから。村澤君のほうにジェルをたっぷりつけて、ゆっくり入ってきて」
三里が涙を浮かべたまま、村澤を見つめて言う。

「だから、余計に愛しいんだ」
あぁ、そうだ。愛しい……。そんな言葉が、一番相応しい想いがあることを村澤は初めて知った。

村澤がゆっくりと腰を進めると、三里は少し口を開き、意識を紛らそうとするように息を吐き続ける。
この寒さの中で汗を滲ませながら、ゆっくりと自分を三里の中に埋め込んでいく。
どうにか、根元まで全て収めると、はぁ〜と大きく息を吐き額の汗を拭った。
村澤のものは三里にしっかりと咥えられ、きついほどに締め付けられていた。

「三里。俺は今、お前の中にいる。判るか?」
村澤が感慨深そうに言うと、
「うん、判る。 ちょっとと言うか、めちゃくちゃ苦しいけど…でも、なんだか嬉しい」
三里もそう言いながら、シーツを掴んでいた手を離し、その手を村澤に伸ばす。
そして、村澤はそんな三里を抱きしめようと、前に身体を倒すと三里が苦しそうに呻いた。

「なんだ…これじゃ、三里を抱き締められないじゃないか」
村澤はそう言うと、三里の手を握りぐいと引き上げ、自分の身体を後ろに倒した。
そして、繋がったままで三里を自分の上に載せると、三里の細い腰を抱くと、
「これで、お前を抱きしめられる。三里……ずっと、一緒の未来を見て行こうな」 と言った。

「うん。君は僕のバカ犬だから……僕は、死ぬまでリードを離さないよ」
涙に濡れた瞳のまま、三里はそう言いながら三里を見上げる村澤の唇に唇を寄せた。

村澤のバカ犬振りは、ほんとうに盛りの付いた犬のように盛って、三里を朝まで寝かさず。
そして最後には、崩れるように意識を失った三里を抱きしめ、いつまでもぺろぺろ舐めまわし?
両腕にしっかりと抱えるようにして、やっと自分も眠りに付いた。
勿論、その日の昼近くになって目が覚めた三里からは、きつい嫌味とお叱りがたっぷり与えられ、
それでも、幸せそうな顔で三里を抱きしめる。

「僕、兄さんと話してみる事にするよ。きちんと話をして、僕に出来ることはこれからも協力するけど、
もう兄さんの脚にはなれない。僕の脚は、僕の未来に向かうためにある。はっきりとそう言うよ」
村澤の胸に背中を預け、村澤の指に自分の指を絡めながら三里が言う。
村澤は、鼻先をくすぐる髪に頬を寄せ、その髪に口づけを落としながら、
「そうか…。お前の兄貴なら、解ってくれるよ、きっと」
声に出して言い。心の中で呟く。

【三里……あの人にとって、お前はとても大切な宝物だから。お前が思う以上に、お前を大切に思っているよ】
その声にならない呟きが聞こえたかのように、
「うん、ありがとう。兄さんは優しくて、小さい頃からずっと、大好きだったんだ。でも………」
でも今は、もっと好きな奴がいる。
そんな三里の声が、ぴったりと合わせた肌を伝わり……聞こえたような気がした。


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