永沢樹理の脳は、大脳の一部が欠落し機能していないため、知能の成長は止まったまま。 だから今でも樹理は、10歳のまま…そこで留まっている。 そんな兄の障害に対し、郁海は苛立ち不可解なほどの怒りで兄に当たる。やがて、衝撃とも言える真実を知らされた時。 郁海の選んだ道は…。 兄で有りたいと切に願い。兄である事が全てだった樹理にとって、自分が弟を護れないと知った時。 樹理の選んだ道は…。 「いくちゃん…今日ね、トンボを見たんだよ。しっぽが縞々になっているトンボでね、ものすごく大きかった。 あんなトンボ、初めて見た。ねぇ、いくちゃん…今度捕まえてくれる?」 二十歳を過ぎた男が目を輝かせてトンボを捕まえたいと言う。 それは、傍から見れば奇異なる光景に映るだろう。だが郁海にとっては当たり前に愛しく、幸せな時間。 だから郁海は、その兄への想いを込めて…答える。 「良いよ…じゃ今度の休み、一緒に捕まえに行こうか。兄さんの作ったお弁当を持って」 「うん!行こう…いくちゃんが一緒なら、きっと捕まえられるね。僕頑張ってお弁当作る」 『 兄・弟 』 より >>>>>>> 本文を読む |